ダイエット

【医師が解説】GLP-1ダイエットって効果ある?副作用はないの?

2020年6月17日、日本医師会の今村聡副会長は記者会見で、一部の医療機関が糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬をやせ薬として使う「GLP-1(じーえるぴーわん)ダイエット」と呼ばれる減量方法に関し、健康な人に医薬品を使うことにはリスクがあるとして、安易に利用しないよう注意喚起しました。

また、「治療の目的から外れた使い方は医の倫理からも外れる」と批判し、厚生労働省など関係省庁に対応を求めることを検討するということですが今後どのような動きになっていくのでしょうか。

今回はこの「GLP-1ダイエット」について説明したいと思います。

はじめに

私は内分泌代謝科の医師であり、毎月数百人の糖尿病患者さんを診察しております。

糖尿病での薬物療法においては以前は内服薬、インスリン注射しかありませんでしたが、10年程前からGLP-1受容体作動薬が使われるようになりました。

今まで100人以上の患者さんにGLP-1受容体作動薬を処方した経験をもとに、効果や副作用についてお話ししたいと思います。

GLP-1受容体作動薬について

まずはGLP-1受容体作動薬について簡単に説明と思います。

専門的な話を含みますので興味のない方は次の副作用まで飛ばして下さい。

 

作用特性と臨床的特徴

  • 膵β細胞膜上のGLP-1(Glugacon-Like Peptide 1)受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌促進作用を発揮する
  • グルカゴン分泌抑制作用も有する
  • 空腹時血糖値と食後血糖値の両方を低下させる
  • 単独使用では低血糖をきたす可能性は低い
  • 胃内容物排出抑制作用がある

 

商品名

1日1~2回ビクトーザ、バイエッタ、リキスミア
週1回ビデュリオン、トルリシティ、オゼンピック

 

投与方法

注射(皮下注射)

注射製剤で形が似ているためインスリンと誤解している方がいるかもしれませんが全然別のものです。

 

適応

2型糖尿病(インスリン非依存状態)

インスリン非依存状態とは膵臓でのインスリン分泌能力が保たれておりインスリン注射を用いなくても生存可能な状態です。

 

禁忌

  • 本剤の成分に対し過敏症の既往歴がある
  • 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病
  • 重症感染症、手術等の緊急の場合
  • 妊婦
  • 授乳婦はなるべく使用しないのが望ましい

 

興味がありもっと詳しく知りたい方は専門書などをご参照下さい。


 

GLP-1受容体作動薬の副作用

重大な副作用

重大な副作用とその主な自覚症状についてまとめました。

主な自覚症状
低血糖お腹がすく、冷汗が出る、血の気が引く、疲れやすい、手足のふるえ、けいれん、意識の低下
アナフィラキシー全身のかゆみ、じんま疹、喉のかゆみ、ふらつき、動悸、息苦しい
血管浮腫唇・まぶた・舌・口の中・顔・首が急に腫れる、喉がつまる感じ、息苦しい、声が出にくい
急性膵炎吐き気、嘔吐、激しい上腹部の痛み、背中の痛み、お腹にあざができる、お腹が張る
腸閉塞便やおならが出にくい、吐き気、嘔吐、お腹が張る、腹痛
重度の下痢、嘔吐何度も水のような便が出る、嘔吐をくりかえす

 

部位別の副作用

副作用の自覚症状を部位別にまとめました。
自覚症状
全身
いれん、冷汗が出る、ふらつき、疲れやすい
頭部意識の低下
顔面血の気が引く、唇・まぶた・舌・口の中・顔・首が急に腫れる
口や喉
喉のかゆみ、喉がつまる感じ、声が出にくい、吐き気、嘔吐、嘔吐をくりかえす
胸部息苦しい、動悸
腹部お腹がすく、お腹が張る、激しい上腹部の痛み、腹痛
背中背中の痛み
手・足
手足のふるえ
皮膚
お腹にあざができる、じんま疹、全身のかゆみ
便
何度も水のような便が出る、便やおならが出にくい

 

GLP-1ダイエットとは

これは糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」を用いて行うダイエットであり、ダイエット業界では「やせるホルモン」などと宣伝されています。

また、「無理せず健康的にやせる」、「欧米では肥満治療薬として承認されている」などとダイエット目的を強調する医療機関もあります。

実際、欧米では食欲を抑え、体重を減らすとして肥満症の治療薬として使われていますが、まだ日本では肥満症の適応はなく、糖尿病ではない方が使用する場合は自由診療となります。

また、今後内服薬が承認される見込みであり、そうなると気軽にこのダイエットを行うことになるかもしれません。

 

効果ある?

胃の動きを低下させることで食欲を抑え、食事量が低下し体重が減少します。

そのため元々過食であり、食事量を抑えたいけど我慢できない人、つまり食欲が抑えられずついつい食べ過ぎてしまう人に効果的です。

元々の体重にもよりますが、2~3kg減少した方から10kg以上減少した方まで様々です。

一方、元々食事が管理できている方には効果はあまり期待できません。

ただし、元々過食の方でも全然薬が効かないケース、つまり食欲が抑えられず体重変化がない方もいますので使用してみないと効くか効かないかわからないというのが正直なところです。

 

副作用はないの?

下痢、便秘、嘔気などの消化器症状は投与初期(特に最初の1~2週間)に頻繁に認められます。

ただし、その後も使用を継続することでそれらの症状は落ち着いてくることが多いです。

数週間使用してもこれらの消化器症状が改善しないようであれば中止を検討した方が良いと思いますのでかかりつけ医に相談して下さい。

糖尿病の治療薬ということで低血糖を心配される方がいるかもしれませんが、この薬を単独で使用する分には可能性は低いです。

他にも色々な副作用がありますので、先程の副作用の一覧から思い当たることがあればかかりつけ医に相談していただきたいと思います。

 

まとめ

糖尿病があり肥満の方、特に食欲が抑えられずついつい食べ過ぎてしまう方は適応があり保険も聞くので積極的に検討してみても良いと思われます。

ただ、糖尿病がなくダイエット目的で利用する場合は自由診療であり保険がきかないことから積極的にすすめはしませんが、興味がある方は副作用のリスクを承知の上、検討してみたらいかがでしょうか。